今、司馬遼太郎著『竜馬がゆく』を読み進めている。第6巻に、竜馬が妻おりょうと寺田屋騒動で痛めた傷を癒すため、西郷隆盛の勧めで霧島山の麓にある塩浸温泉を訪れるくだりがある。その昔、この本を読み終えた時、いずれはその地を訪ねてみたいものだと思っていた。しかし、この本を読んだのは学生時代であり、もう随分昔のことである。バイクにまたがりいろんな温泉を訪ねるようになったが、そこに行こうという意識は浮かんでこなかった。そもそも遠い。
今、『竜馬がゆく』の再読の真只中。そしてその温泉の再登場。細かな描写も忘れてしまっていた。再び読み返して俄然そこに行きたいと思ってしまった。
同期採用の友人がいる。バイク乗りで龍馬好き。この友人に塩浸温泉ツーリングを提案したところ即答OK。彼は既にここに行ったことがあるらしく今回で2度目になるとのことだった。目的地まで200kmほどのツーリングは決定した。ルートをGoogleマップで調べると「塩浸温泉龍馬公園 龍馬とお龍の湯」と出てくる。ただこの辺りは、つい最近の熊本南部の豪雨により被害の出た地域らしく、マップを詳しくみると依然として通行止めになっている区間が多数ある。しかしこの塩浸温泉までは迂回しつつ辿り着けるようである。
さて、予定した日は絶好のツーリング日和となる。途中で友人と合流し目的地を目指す。お昼も近い時間になっていたので『道の駅山之口』でハーフ丼(椎茸&チキン南蛮)を食べる。椎茸がここの名物らしい。美味で出だしからの大満足となる。

目的地である塩浸温泉は、距離以上に遠く感じた。宮崎市から都城市を経由し霧島神宮方面に向かう。そこから錦江湾方面に向かうようなルート。鹿児島県霧島市になる。霧島市に入ると通行止めの標識が急に増え始めるが、そこを避けるように進んでいく。どうやらGoogleマップは通行止めを回避するコースを提示しているようである。
そしてついに恐れていたことが‥‥。「Googleマップあるある」に出くわしてしまったのである。それまでの舗装道路は、未舗装道路に変わり、誘導されるがままに進んでいたら路面が急に荒れだし、激しい凹凸状態になってしまったのである。オフロードバイクならともかく、車重260kgのハーレーには走行不可能の道。しかもそこは車1台がやっと通れるほどの幅しかない。坂道でもあり進むこともバックもできず、立ち往生の状態になる。一人の力では何もできない。友人に助けを求め、二人がかりで手押しによるUターンを試みることになった。バランスをとりつつ少しずつ移動させるのだが、砂利に乗ったバイクが勝手にズルズル滑っていく。ただでさえ暑いのに、炎天下の中での筋トレ状態である。身体中から汗が吹き出し、ヘルメットの中も汗だらけ。そして、努力の甲斐なくバランスを崩してしまいバイク転倒。直前に満タン給油していたのでガソリンが漏れ出している。最悪の展開。二人がかりでバイクを起こそうとするが傾斜のある坂道のため、いつも以上に重く感じる。身体中から汗が吹き出す。悪戦苦闘の末、なんとか起こすことができ、そして慎重に方向転換を試み、やっとの思いでUターン完了。悪路からの脱出(喜)劇だった。とにかく一人では絶対に脱出できなかったと思う。友人には感謝しかない。
舗装道路に戻った後、別の道を検索するものの、どうやら塩浸温泉に行く道はここしかないようである。しかしバイクでは行けない。ならば歩いていくかと思うが、目指す温泉までは 4.7kmと表示されているではないか。疲れきった我々の身体にはもうそのエネルギーなどなかった。ここまでおよそ200kmの道のりの195kmを走り、あと5kmの時点での断念。無念の言葉しかない。下調べを慎重にすべきだったと反省するがもう後の祭り。元来た道を引き返すことにした。本来ならば龍馬とおりょうが浸かった湯を思い出しながら、思いを達成した余韻に浸っていたはずである。重怠い気分が全身を包んでいる。そして身体中汗でべとべとである。とにかく別の温泉を目指すことにした。
新たな目的地を、宮崎県高原町にある「極楽温泉 匠の宿」にした。お気に入りの温泉で度々訪れている温泉である。

30トンの石をくり抜いて作ったと言われる一彫石風呂が見事な温泉。ゆったりと湯に浸かり、今日の出来事を振り返る。心地よい湯に浸かりつつ冷や汗が出てくるような思い。
ここから我が家までは130kmほど。帰路の道中、気が重かったのはいうまでもない‥‥。
ちなみに今回の前走行距離は358km。達成感ではなく徒労感が漂っているのである。